【異世界転生】
はじめまして。イバラユーギと申します。
「マーダーミステリー」と呼ばれる、とても面白いゲームを作ったり遊んだりしています。本当です。
さて、毎週月曜日に更新すると息巻いていた当ブログですが、おそろしく忙しい日々を送っており、
何か気づけば月曜日になっていました!!
なので今回は、昔書いた謎の小説を貼り付けるという数秒で終わる作戦にでます。
何年前に書いたかも不明です。5年以上は前な気がします。
内容は、異世界転生のとても面白いお話ですね。異世界転生もの。
ちゃんとマーダーミステリーのブログもまた書きますので、書きますので。
どうか今回はこれで許してくだせぇ。この通りです。
という訳で、コピー&ペーストします!!!!
『平凡な僕は、異世界転生を夢見て、今日も生きる』
退屈だ。
何が退屈かと聞かれれば、全てと答えるしかなく。
平凡な、ありふれた、同じことを繰り返す日常に、僕は飽き飽きしていた。
フレデリック、フレデリック。と、母さんの声が遠くから響く。
夢の内容は覚えていない。けど、きっと、非凡で幻想的で日常とはかけ離れた夢を見ていたのだろう。
だって、こんなにも目を覚ますのが億劫なのだから。
……それでも僕は、いつも通り、何かに操られたかのようにベッドから体を起こした。
けど、この日は少しだけ違和感があった。
小学校の頃、寝魔法を誤射して家具を壊してしまった朝のような、人間が本能的に持っている、嫌な予感だ。
……しまった。枕元に置いてある時計を見て、僕は確信する。
どうやら、昨晩、普通の目覚まし時計と間違えて、巻き戻し時計の方を設定していたらしい。
なんせ昨日は課題などに追われていたせいか、とてつもなく眠たかった。
時計の設定を間違えてしまうのも、仕方ないことだ。
人間誰しも失敗はあるし、それを責めても、時間の無駄である。
とはいえ、また昨日と同じ11月1日を繰り返すのも、それこそ時間の無駄だ。
……うん。
いや、怒られるのが嫌だ。とか、失敗したのを見つかりたくない。とか、そんな格好悪い理由じゃない。
ただ、怒り怒られる労力やそれに伴う色々なことを考慮したら、誰にもバレずに時間を進めた方が合理的なことは明白だろう?
僕は、時計の設定を11月2日に合わせ、ベッドで二度寝した。
退屈だ。
何で退屈かと聞かれれば、自分が普通で一般的で平凡な人間だと、齢16にして悟ってしまったからと答えるしかなく。
同じように、僕が生きるこの世界も、ファンタジーな要素皆無の何の変哲も無い世界だ。
フレデリック!フレデリック!と、母さんの声が一階のリビングから聞こえてくる。
夢の内容を覚えていて、更に夢の中で自由に動ける人がいるらしい。実際に僕の友人にも数人いる。
その戯言を真に受けるとして、そうなってくるとその人は夢と現実を、どこで判断しているのだろう?
そんなくだらない事を考えながら、現実と向き合うべく僕は目を開いた。
「……風ノ精霊ニ命ズ」
『ムーブ』
契約している精霊にマナを借り、風でできた乗り物を作り出す。
こうすると寝転がったたまま移動できる、我ながら素晴らしいアイデアだ。
ふわふわと心地好い運転で、僕は階段を降りていくと、リビングからパンの焼けた匂いが漂ってくる。
……いやこれは、焼けた、というより焦げた匂いだな。
母さん、またやったのか。
黒焦げになったパンが食卓に置かれている。
……お袋の味、ってあるだろ。
人によって色々だろうが、ドラゴンテールじゃが、とか、コカトリス卵焼き、などがべたなところか。
だが、僕にとってはこれだ、この黒々ぱさぱさとしたパン。
そう言えるくらいに、母さんの呪文失敗は日常的な出来事だった。
そのダークマターのような物体を頬張り、僕はほうきに跨がった。
通学で毎日使う飛行魔法は、流石にもう無詠唱でいける。
「じゃあ、いってきます」
退屈だ。
何に退屈してるかと聞かれれば、刺激の無い毎日に、起承転結の無い人生に、クソみたいな現実に、退屈していると答えるしかなく。
これが思春期特有のもので、いつしかこの退屈にも慣れてしまうんだろうと、何となくだが気付いてもいた。
「はぁ……」
大きく伸びをして鼻から息を吸う。
苦手な水魔法のテストを終え、テスト自体はまったく出来なかったのだが、とにかく頑張った自分へのご褒美として図書館へ来ていた。
口癖のように、現実はクソだクソだ!と言ってはいたが、そんな僕にも、もちろん好きなクソはある。
そのひとつが、ここだ。
「ネールカス著書の『平凡な俺が異世界転生した2』お願いします」
僕が楽しみにしていた小説。その続編の貸し出しが始まったと聞いて、学校帰りに町の図書館へ寄っていた。
「はーい、ちょっとお待ちくださいねー」
「……物質ノ精霊ニ命ズ」
『コピー!!』
職員のお姉さんが呪文を唱えると、僕の前に一冊の本が現れた。
異世界転生ものかよ、と侮ることなかれ。
平凡な俺が異世界転生した、こと俺転は、このジャンルの先駆けで、このジャンルの完成形でもある。
ネールカス先生の発想力は素晴らしく、その世界観に引きずり込まれること間違えなしの名作だ。
……2作目を読む前に、前作のおさらいといこうか。
『はじまりの舞台は、僕たちの住む現実世界。
主人公アークは、ごく普通の平凡な少年だった。
人並みに魔法も習得し、人並みに恋もし、人並みな人生に退屈もしていた。
彼は22で魔大学校を卒業、その後、王国第三魔法軍に仕えることになる。
そして、蒼の魔人討伐戦にて命を落とす。』
この主人公アークに感情移入してしまったのも、僕が俺転にはまったきっかけだ。
僕も偶然、第三魔法軍を志望している。本当に偶然だ、アークに憧れたからとかでは断じてない。
まあ僕の退屈な未来の話は置いとこう、今は俺転の主人公、アークの話だ。
『そして、命を落としたはずのアークだったが、とある病室で目を覚ます。
一命をとりとめたのか、それとも天国に来たのか、色々と考えを巡らせるが、まあなんやかんやで、自分が異世界に転生したんだと気付く。
アークの夢で語りかけてきた謎の声曰く、
「同時期に違う世界で昇天しかけていた魂を取り違えちゃった。
こんなに似ている魂があるなんて珍しいことだし仕方ないよね〜。
まあ、死ぬはずだった命が助かったんだし細かい事気にせず新しい人生を楽しんでね。
あ、ちなみに魂入れ替わってることが誰かにバレたら死ぬんでよろしく〜」
とのことらしい。
その言葉を信じるには十分すぎる出来事が、アークの周りで次々と起こる。
アークの見た目は、若返った程度でそこまで変化は無いのだが、なんと、魔法が使えなくなっていたのだ……。』
そう、これが、ネールカス先生の真骨頂。
誰も思い付かない奇想天外なファンタジー。
それがこの魔法が無い世界で『日本』と言うらしい。天才的なネーミングセンスだ。
魔法が無いなんて、想像もつかないし、魔法が無ければ野生のモンスターみたいにその日暮らしで食料を狩って生きるしかない……と思うだろう?
だってそうだ、氷魔法が無ければ食料の保存も効かないし。
火魔法が無ければ肉を焼くことも出来ない。
移動だって歩くしかないし、空も飛べない。
相当荒んだ世界観で描かれた異世界作品だと、思うだろう。
しかし、そうではない!
日本は、魔法が無いかわりに技術が発展している。
例えば、こんな一節がある。
『俺は階段を降りていくと、リビングからパンの焼けた匂いが漂ってくる。
マンドラゴラの悲鳴ように、チーン、と高い音を鳴らし、トースターからパンが飛び出してきた。』
トースター!?
もちろんネールカス先生が考えた架空の道具なのだが、電力、という力を使って動く。
人によっては、設定に無理があるだとか、ご都合主義な便利言語電力だとか、馬鹿にする奴もいるが、僕はこの夢に溢れた設定に胸を踊らせわくわくせずにはいられなかった。
その他にも、燃料で動く鉄の塊『自動車』。
電波を使い離れた場所でも会話出来る『電話』。
電力を込めた道具『電池』を使い時計を動かすなど、細かい所まで考えられている。
と、例をあげればきりがない。
もちろん、魔法が無いので、学校の授業も属性別カリキュラムで組まれてなく、テストも魔力で競わない。
その代わり日本の学校では、『学力』を競いあう。
国語、数学、社会、理科、など。
それぞれに派生した専門分野もあり、それらを学び、その成果で競うのだ。
そんな面白そうな設定、どうやったら思い付けるんだ?ネールカス先生は神なのだろうか。
アークは異世界に転生し、日本の16歳の少年『山田太郎』として生活していた。山田太郎、天才的なネーミングセンス。
当初慣れない世界に戸惑い、何度も魂が入れ替わってることを周囲に気付かれそうになるが、なんとかやり過ごし、この世界に馴染んでいく。
そして、二年。
18歳になったアークは、ついに学力競争の総決算である『大学受験』に挑戦する。
『アークは、静かに息を吸い込んだ。
木で造られた机の上には、バハムートの牙のように鋭く削られた鉛筆とシヴァに滅ぼされた文明よりも白い消しゴム。
それらの使い方が判らずに壊してしまった昔を思いだし、少しだけ口角があがる。
そんな些細なことで、つい先刻まで爆発しそうだった緊張がほぐれていく。
出来ることは全てやった、ポケットに入っている母から貰ったお守りを握りしめ、目を閉じて集中力を高めていく。
ガララ、とドアが開く音がする。
ドラキュラ族の正装に似た黒い服を着た男性が入ってきた。
「それでは、テストを開始してください」
冷たく放たれたその言葉と同時に、教室に集められた戦士たちは一斉に武器を手に取り、テストの紙を裏返した。』
ここで、なんと、ここで1作目は終わったのだ!
ネールカス先生信者だが、流石にこの終わりで半年待たされるのは怒りを覚えた。
でも、ついに今日、俺転2が読めるんだ。
この世界は退屈で、僕の人生は普通だけど。
平凡な僕は、異世界転生を夢見て、今日も生きる。